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気候変動から大麦を救え!カナダでの自社開発大麦栽培に奮闘している若手女性研究員

 サッポロビールは創業期よりビールの原料研究・育種に力を入れており、これまで多くの大麦やホップの自社開発品種を世に送り出し、現在は、気候変動に対応する原料開発にも注力しています。
サッポロビールの原料の取り組みには品質、安定調達、環境との調和、社会との共栄(生産者との協働)という4つの目標を掲げた、他のビールメーカーにはない「フィールドマネジメント」という総合的な麦芽・ホップ調達活動があります。そして、そのフィールドマネジメントを推進するのは、育種、栽培、加工の知識と経験を有する「フィールドマネージャー」と呼ばれる麦芽、ホップのプロフェッショナルです。現在は大麦(関東、北海道、北米、豪州、欧州)とホップ(東北・北海道・北米・欧州)あわせて9名の「フィールドマネージャー」が国内外で活動しています。各担当エリアの生産者を訪問し、各地域、各生産者に畑の悩みごとから気候変動に関する対策まで幅広い情報交換やアドバイスを行い、生産者とより良い原料を一緒に造り上げていきます。

   

原料にこだわるサッポロの姿勢に惹かれて入社

今回は、自社開発した特別な大麦をカナダで栽培するべく奮闘している、サッポロビール原料開発研究所 原料育種研究グループの若手研究員兼カナダ担当フィールドマネージャーの牧本梨奈さんにお話を伺いました。

牧本 梨奈
2019年サッポロビール入社、原料開発研究所にて大麦の研究をしながら、フィールドマネージャーとしてカナダエリアの協働契約栽培の推進活動も担っている。

――――フィールドマネージャーの中で最年少、しかも女性では初めてと聞きましたが、学生時代から原料や農作物に関する仕事に興味があったのでしょうか。
 私は農学部出身で、大学4年生から大学院にかけては果樹園芸学研究室で果樹の柿について研究していました。就活を開始した当初は、多くの人と関わって日本の産業や地方を盛り上げたいと思い、国家公務員を考えていました。しかし、就活を進めていくうちに自分は民間の会社で直接的に日本の産業を盛り上げていきたいと思い始めるようになりました。食べることやお酒が好きだったので、研究スキルも活かせる食品メーカーを中心に受けました。そして、一番おいしいと思ったビールが「サッポロ生ビール黒ラベル」だったことと、原料からこだわって品質の良いビールを造るというサッポロの姿勢が自分に合うかもと思って選びました。

フィールドマネージャー任命、カナダでの挑戦

――――最初にフィールドマネージャーに任命されたときの気持ちはどうでしたか?
そうですね。面接時から一貫してフィールドマネージャーをやりたいと言っていたので、1つ夢が叶ったなと思いました。2年目でカナダの大麦育種担当になっていたのと、フィールドマネージャーになるための研修も会社で受けていたので、無事になれて良かったって気持ちが強かったですね。女性初のフィールドマネージャーということもあって、これから目指す後輩たちのモデルケースになりたいと気が引き締まりました。
現地では主に育種(品種改良)とフィールドマネージャーの2つ仕事を担っています。カナダには、毎年夏に1ヵ月、冬に1週間行っています。
育種の業務では、共同研究をしているカナダのサスカチュワン大学の先生や現場スタッフと一緒に品種についての研究のデータ分析やディスカッションをしたり、複数個所ある試験圃場で大麦の生育の評価をしたりしています。
フィールドマネージャーの業務としては、安定調達の取り組みとして生産者と畑の確認や求める大麦品質について意見交換をしています。あとは「LOXレス大麦」と「気候変動対応大麦」のそれぞれ新品種を開発し、現地で栽培すべく、製麦会社や生産者と話し合いを重ねています。どのようにしたらカナダの畑でも生育できるか、日々現地の方とコミュニケーションを取りながらいろんな実験を行っています。

サスカチュワン州の位置

今後もずっと注力したいことは、新品種の開発で優れた大麦同士を交配して、今までにない大麦品種を作ることです。育種によっておいしさ長持ち、雨に強い、製麦にかかるエネルギー削減などの要素をすべて持ち合わせた大麦品種が開発できればビール業界のサステナビリティに貢献できます。そんな大麦をカナダ全域で普及、全世界に向けて販売していきたいと思っています。
※牧本さんの奮闘ぶりはカナダサスカチュワン州政府の公式YouTubeにも掲載されています。

ヘリで協働契約栽培のミーティング

新品種をカナダで栽培開始

――――カナダで実際に働いてみて大変だったことは何でしょうか。
私が担当した直後に、カナダでの「LOXレス大麦」に加えて新たに「気候変動対応大麦」の新品種開発も始まったことです。前例が全くない分析・評価を現地で実施しなければなりません。現地のスタッフに1から説明して、実施する意義や内容を理解してもらうのが大変でした。この研究が解決する課題や検査基準を何度も何度も丁寧に説明した結果、現地スタッフも納得してくれて、今ではとてもスムーズに研究が進められています。

日々大変なことは少なくないのですが、ずっと憧れの仕事だったのと、社内もカナダで関わる方々も良い人たちばかりなので、とても楽しく働けています。本当に多くの方に支えられて、仕事ができていることを実感しますね。
仕事の合間のふとした瞬間にカナダの広い大麦畑を見ると、ここにある大麦すべてが最終的にビールになっていることに感動します。多くの人に「この畑全部がビールになるんだよ!」ということを伝えたいですね。

カナダの広大な大麦畑

先輩たちからの襷を受け継ぐ責任と希望

――――素晴らしいマインドで活躍されていますが、今後のご自身の展望などを教えてください。
 
不思議な縁を感じるのですが、サッポロビールがカナダの大麦育種を始めた1994年は私の生まれ年でもあります。カナダの育種担当は私で6代目なのですが、先輩方が長い年月をかけて整えてくれたシステムや材料で良い研究ができているので、この成果を次の世代にも繋げていく責任感を感じています。
特に「LOXレス大麦」と「気候変動対応大麦」のそれぞれの新品種開発は絶対やりきりたいですね。今後はホップも含め、原料のスペシャリストになって、将来の仕事にさらに厚みが出せるフィールドマネージャーになりたいです。

取材を終えて

いかがでしたでしょうか。今回はサッポロビールの若き研究員兼女性初のフィールドマネージャーを取材しました。牧本さんの話を聞いていると周りの人に感謝をしながら、夢に向かって進んでいるたくましさを感じたと同時に、今後も研究員やフィールドマネージャー1人1人の挑戦によって、おいしいビールの品質が未来まで守られていくことを確信しました。また、フィールドマネージャーは生産者を定期的に訪問し、現地の状況を確認しており、この取り組みを通じて、生産現場の人権尊重と持続可能な調達が実現していると思いました。これからもサッポロビールの明るいビールの未来にご期待ください!