がん社内コミュニティCan Starsで仲間に安心と働きがいを届けたい
がんになっても働き続けたい———日本ではがんになる人の3割は就労世代(15歳~65歳)で発症していると言われていますが、医療の進歩により、現在がん治療は仕事と両立できるようになっています。
そうしたなか、サッポロビールでは、“がん”と共に働ける風土づくりを目指し、2019年にがん社内コミュニティCan Starsを発足し、現在もさまざまな取り組みを進めています。
今回はCan Stars立ち上げに関わり、フロントランナーとして今も新たな道をカイタクし続けている村本さんにお話を聞きました。
Can Stars立ち上げのきっかけ
まず初めに、活動をはじめたきっかけを教えてください。
2011年秋、私は頸部食道がんが再発し声帯を全摘手術しました。
再発したときに、医師からは手術するしかないけれど、食道発声法を身に付ければ小さい声だけれど出るようになると言われ、退院直後から発声教室へ。そこには、同じ境遇の方々が明るく懸命に練習する姿がありました。その光景を見た時に「生きてさえいればなんとかなる」と勇気と希望をもらいました。
また、闘病中はいろいろ気づきがありました。声がでなくても、生きている限り色々な考えや想いがあるんだなぁ、そのほとんどが言葉として外に出ることなく消えていくんだなぁ、など。
頸部食道がんを経験したからこそ感じたものもあったんですね。そこから、なぜCan Starsを立ち上げようと思ったのでしょうか。
手術の翌年に復職。ある日、ふと社内を見渡したとき、一緒に働く仲間たちが、本当に大切なことや生きていくこと・働いていくことの喜び・苦悩等をどこまで言葉に出しているのだろうかと思いました。
そうしたなかで、「私自身も社内で体験談を語る場を作りたい!」と思うようになり、2014年秋から自分の闘病体験を題材にした「いのちを伝える会」を始めました。
日ごろから大切だとわかっていても忙しい日々のなかで、考えることが少ない「命の大切さ」や「働くことの意味」。闘病体験を通じて感じたことや経験したことを述べ600人ほどの社員に伝えました。
その頃、社外イベントにも声が掛かるようになりました。さまざまなイベントに登壇するなかで、あるイベントでご一緒したアフラック生命保険から、今度“がん社内コミュニティ”を立ち上げるという話が。その話を聞いた瞬間「素晴らしい!」うちでもやりたい!と思い立ちました。それがCan Stars立ち上げのきっかけです。
そこから、アフラック生命保険を訪問し実際にミーティングに参加させてもらいました。社内の仲間にも「がん経験者の社内コミュニティがあったらどう思う?」といった声がけを実行。「ぜひ、やりたい!」「参加したい!」という声が集まり、2019年がん社内コミュニティCan Starsの発足に動き出しました。
Can Starsの活動内容とは?
素晴らしい行動力ですね。村本さんのパワーに仲間の心も動かされたんだと思います。念願叶い開かれた第1回目はどうでしたか?
第1回目を開催するにあたり、イントラネットで参加者を募集。10名ほどが集まりました。
当日は、顔はよく知っていたが互いに「がん」だったことは知らず「あなたもなの?」と驚き合ったり、全く知らないような人同士が「実はそうだったんだ」など深く話を聞き合ったりしました。なかにはステージ4の人や治療に一区切りがついた人など、同じがんでも状況も治療段階もさまざま。お互いいろいろな気づきがあった第1回目は、今までの活動のなかでも特に忘れられない会となりました。
また、発足初年度には、先輩格のアフラック生命保険に「交流会をやりましょう!」と呼びかけ、当社にて両社の交流会と懇親会を開催。互いにエネルギー交換をすることができ、非常に良い機会となったと手ごたえを感じました。
初年度から有意義な時間を過ごしてきたんですね。現在は、どんな活動をしているのでしょうか?
現在は2か月に1回のペースでミーティングを行い、今年で発足5年目を迎えました。
Can Starsの活動には、以下3つの柱があります。
①がん経験者同士のピアサポート・相互支援
②治療と就労の両立環境の整備
③社外へのインパクトの創出
活動の中で1番大切にしているのは、がん経験をお互いに語りあう“ピアサポート”です。Can Starsという存在が、社員にとって安心できる拠り所になっていると思っています。そうしたなかで、治療と就労を両立できる環境づくりにも力を入れています。具体的には、『治療と就労のガイドブック』の作成、Can Starsカフェ、生活習慣病の啓発等です。こうした活動で生まれた知見や枠組みは、社内に留めるだけでなく積極的に社外にむけた発信も行っています。
また、当社の事業領域は、がんとは直接的には結びつきませんが、Can Starsの取り組みから得た知見や枠組みは、積極的に社会へ発信し、いろいろな企業と連携・協働することを含めて、社会へのインパクトを創出していきたいと思っています。
「治療と就労の両立支援」&「企業内がんコミュニティ立上げ・運営」ガイドブックを社外へ
Can Starsの活動で得たモノを社内に留めるのではなく、社外にも発信していく。重要なことですね。社外に発信した具体的な取り組みを教えてください。
代表的なのは両立支援の経験がある社員の実体験をふんだんに盛り込んだ「がんなど治療と就労の両立支援ガイドブック」と、「企業内がんコミュニティ立上げ・運営ガイドブック」です。
2022年に公開した「がんなど治療と就労の両立支援ガイドブック」は、当事者の視点を前面に出していることが特徴です。2017年に社内向けにつくっていた初案をバーションアップ。本人向け・上司向け・同僚向けの3編を作成し、それぞれに伝えたいメッセージを明確化しました。Can Stars会員の一言や事例を掲載することにより、より具体的に治療と就労の両立をイメージできるような構成にしています。
さらに、2024年には、5年間の活動ノウハウをもとに「企業内がんコミュニティ立上げ・運営ガイドブック」を公開しました。現在、治療と仕事の両立支援を推進する目的で企業内にがんコミュニティを発足する動きがあり、他企業や団体から当社に質問を寄せられることも少なくありません。そこで本ガイドブックでは、世間の状況や企業の実情に合わせて、企業ががんコミュニティを立ち上げ運営する際のさまざまやり方を示すとともに、Can Starsの5年間の具体的な活動をまとめています。
最近では、イベント等で「サッポロビールは先駆的な取り組みをしているね」と声をもらうことも。実際に社内コミュニティを作りたいという企業から相談や問い合わせをもらう機会も増えました。
サッポロビール・社会にとっての☆を目指して
認識してくれる人の幅が広がりつつあることは、次の取り組みの励みにもなりますね。最後にCan Starsのこれからについて教えてください。
Can Starsは、サッポロビールにとってのあるいは世の中にとっての個性的に輝く☆であって欲しいと思っています。
組織としての活動を進化させたい一方で、初めてがんになる人の不安や混乱は時代と共に変わるわけではありません。そういう意味でも、対話を積み重ねながら、不安や混乱に常に寄り添っていくことが大切だと思っています。
同時に社外へのインパクトも創出させながら、サッポロビールあるいは世の中にとって個性的に輝く☆となれるよう活動を続けていきたいです。
インタビューを終えて
今回のインタビューで一番印象に残ったのは、がん経験者としての歩みをご自身の言葉で力強くお話されている姿でした。がんと共に働き続ける———その答えは一つではなく、がん経験者の数だけ物語があるのかもしれません。そうした中で、当社の事例が一つのモデルケースとして、がんを経験した本人や支援に関わる方々の力やヒントになればと思っています。